雑種強勢と近交弱勢

 

この回では、受粉の際の親の組み合わせによって子の世代の強健さが変化する「雑種強勢」「近交弱勢」について解説する。なお、これらが起こる原理については複雑なうえ未だ不明な点も多いため、今回は省略した。まずはこれらの現象が採種にどう影響するのか知ってほしい。

 

 雑種強勢とは

異なる種や品種同士を交配させてできた雑種(F1)は、両親のどちらよりも優れた性質を示すことが多い。この性質が雑種強勢(ヘテロシス、heterosis)であり、親同士が遺伝的に離れていれば離れているほど雑種強勢は起こりやすくなることがわかっている。

この性質を利用した代表的な例がトウモロコシの育種である。現在のトウモロコシの品種はF1品種が主流であるが、それらが開発される20世紀中頃まではひとつの穂に8列程度しか種子が付かない品種がほとんどだった。現在のようにひとつの穂に多くの種子が並ぶようになったのは、雑種強勢によって種子の数が増えたF1品種の普及によるものである。トウモロコシに限らず、現代の多くのF1品種でこの性質が利用されている。

 

 近交弱勢とは

近交弱勢は雑種強勢の反対で、親同士が遺伝的に近いと子世代の草勢が弱くなる性質である。同一の株で、または同じ株から採れた兄弟同士で採種を続けると起こりやすい。これは普段劣性形質として発現していない有害遺伝子が、近親交配を繰り返すことでホモ接合となって発現するため起こる。

 近交弱勢については、作物によって起こりやすさに差がある。主に自家受精によって種子をつくる作物やウリ科の野菜は比較的起こりにくく、逆にニンジンやタマネギ、アブラナ科野菜では起こりやすいとされている。

 固定種野菜を自家採種する際には、優れた性質の種子を次代へ残すためにも近交弱勢が起こらないよう十分注意しなければならない。例えばニンジンを採種する場合、遺伝的に近い個体同士の交配を防ぐため採種用の株(母本)は最低でも20株程度必要となる。

 

特に規模が小さく各品種の株数が少なくなりがちな当農ゼミでは、近親交配とならないようあらかじめ採種に必要な母本の数を考えて種をまくよう注意する。


参考文献

作物の一代雑種-ヘテロシスの科学とその周辺- 山田実 2007年 養賢堂